
京都洛中、いにしえから銘水に恵まれた地に建つ佐々木酒造。酒蔵ツーリズムの「冬季限定!佐々木酒造酒仕込み早朝腸見学」におじゃまさせていただいたのは、まだまだ寒い3月のこと。
(詳しい様子はコチラへ…)
“京都”に持つイメージで、いちばん多いものってなんだろう。
歴史、寺院、赤い鳥居に修学旅行…?
なかには「敷居が高い」なんてイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれない。
“酒蔵”や”伝統”に抱くイメージは?
頑固一徹、多くは語らない…。とっつきにくいと感じることもあるのではないだろうか。
佐々木酒造の酒蔵見学は、そんなイメージをことごとくくつがえす嬉しい驚きに満ちたものだった。

佐々木酒造の蔵見学は、日頃お酒を仕込んでいる蔵人自らがナビゲーター。楽しく、わかりやすい説明で飲み手を造り手の世界へと導いてくれる。
「日本酒は蒸したお米を原料に造られるお酒」
「米麹は蒸し暑い空間で造られる」
「日本酒造りには酒母が大切」
いくら文字や画像で目にしても、肌感に勝るものはないのではと、つくづく思う。
ギシッと音を立てる細い階段や、見上げるほど高く、薄暗い天井。ひんやりした空気にほのかにただよう湿った香りは、足を運んだ者しか感じられない。

おそるおそる梯子を上り、タンクの上で嗅いだ甘い香りと、麹がぷくぷく息をする姿は本当に尊いものだった。
後日、佐々木酒造とおなじく、西陣の地で長い伝統を誇る「萬重」でお食事する機会をいただいたのだが、これもまた、心震えるすばらしい体験だった。
当日は、あいにくの雨模様。
雨粒したたる傘をたたむ店先には打ち水が打たれ、まるで別世界のような清涼感を生み出している。
長い石畳の先にある戸を引くと、ふわりと鼻孔をくすぐる香の香り。
いっぺんに視界が明るくなったかと思うと、あでやかな西陣織と美しく品ある笑顔の数々が出迎えてくれた。

この日のお料理は、ひな祭りをテーマにしたもの。目で見て、手に取り、舌で味わう心遣いの数々に心が震える。庭では雨のなか梅の花がほころび、床には菜の花があしらわれていた。
料理とお酒に舌鼓を打ちつつ、萬重若主人の田村氏、佐々木酒造社長の佐々木氏のお話に耳を傾けるなんとも贅沢な時間。そして、お客様のリクエストに応じ、お席に登場された田村氏のお母様である女将。
はっと息を飲むような美しさとうらはらに、ユーモアあふれる語り口と、たおやかな対応に心が奪われる。
あぁ…そうなのだ。ホンモノというのは、決して肩ひじ張ったりせず、相手を下に見たりせず、その場に応じたもてなしを届けられるものなのだ。
酒蔵見学や萬重のお食事会で対応してくださった佐々木社長。料理、ひいては食材への尊敬の念を伝えてくださった田村氏。そして、女将。
そこには、日本で古くから受け継がれるもてなしの精神があふれていた。
このような機会をいただけたことを、心から有難いと感じる。

後日、わっぱを模した外装に納められたおせんべいを口にしながら「もう一度お茶を習えるならば、先生への手土産はこれにしよう」と心に決めた。
本当にありがとうございます。そして、ごちそうさまでした。
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「佐々木酒造株式会社」(Sasaki Sake brewing) URL:https://www.jurakudai.com/ 京都洛中で唯一残る酒蔵。佐々木社長をはじめ、従業員は25名(ネコ含む ※リモートワーク中)。蔵周辺には西陣織会館やお豆腐屋さん、酒粕を使ったかき氷を楽しめるお店も。 「萬重」(Mansige) URL:https://www.kyoryori-manshige.co.jp/ 西陣の地で伝統を紡ぐ料理店。季節のしつらえときめ細やかなもてなし、繊細な料理が訪れた人の心を満たす。