塩辛、好きなんです。イカの塩辛。でももう何十年食べてない。
記憶の塩辛は父がせっせと作ったもので、市販品のようなピンク色じゃなくて、薄茶色。そのなかに、ぶつぶつっと切られたイカが、ゲソから耳までたんまり入ってる。
皮の剥き方も、くちばしの取り方も、吸盤は取り除いておくことも父から教えられたけど、味付けの分量だけは朧げで再現できない。塩がたんまり入ってて、みりんも使うんだって見せられた気はするんだけど。
友だちとそんな話をしていたら「覚えてるよ。志帆ちゃんちでネスカフェの瓶に入った塩辛食べたの」と教えてくれた。
ネスカフェの瓶!そうだった…あの、黒い蓋のガラス瓶に詰められてたイカの塩辛。そして「あの手の塩辛はシマメイカじゃないと」と友だちに言われさらに思い出した。あのイカは父が釣ってきたものだったと。大量に釣れるたび、ネスカフェ瓶が増えていったのだと。
シマメイカはどんどんお高くなってるらしいし、ネスカフェ瓶を空けることもないし、味付け不明だし…もう、あの塩辛に会うことはないんだな。シロさんとカヨコさんを見ながらぼんやり思う日曜日。