春を喰らう。

雪の茅舎

春は少し苦手。

まだ、しんとした雪のなかに居たい。誰もが身動きできず、動物も人も草花もみんな、じっと息をひそめてる状況に甘えていたい。

春ですよー、さぁさぁ、起きて起きて。と言われても、そうすぐに体と心は順応できないのだ。

いつもそばにいるウンベラータの大きな葉が、黄色くなって、パタンと落ちた。

わかれた枝には、あちこちに新芽がついている。

ぞわぞわと、土のなかでうごめく小さな芽の音まで聞こえてくるようで、やはり落ち着かない。

春は苦手だ。と、仕事が詰まっているのをいいことに数日引きこもっていたのだが、気まぐれに酒を買いに出た。

みずみずしい和梨のような香り。さらりとした口当たりと甘みがどこまでも心地良い。

冷たく、澄み切った雪解け水のように。

初めて教えてもらったときの美味しさを、今も覚えてる。

酒屋までの道すがら、五分咲きの桜をずうっと眺めた。

あぁ、そうなのですね。春ですね。

また、春が来る。

「雪の茅舎 製造番号酒 純米大吟醸 生酒原酒」(齋彌酒造店/秋田)
yukinobousha seizoubangousyu
1本1本ナンバリングされた、2月限定の生酒。
厳しい寒さのなかで育てたもろみを袋に吊って、こぼれる雫を集めたトクベツ品…。あぁ行きたい。秋田。